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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)2955号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人高橋万五郎の上告趣意第一点の(一)は憲法三七条二項違反を主張するけれど、同条項の法意は「被告人が判決において有罪の言渡を受けた場合にその被告人に証人の喚問に要した費用の負担を命ずることを禁ずる趣旨でない」と解すべきことは当裁判所大法廷の判例とするところであるから(昭和二三年(れ)三一六号同年一二月二七日大法廷判決、判例集二巻一四号一九三四頁以下参照)、論旨はその理由なきものである。また同(二)の所論は単なる訴訟法違反の主張であり刑訴四〇五条の上告理由に当らない。のみならず本件訴訟費用中第一審証人榎本欣造、同木村倉之助及び同佐々木忠雄に支給した分は、原審で無罪の言渡があった点について生じたものであり、しかも被告人の責に帰すべき事由によって生じた費用とも認められないから、原審が右の訴訟費用を被告人に負担せしめたことは違法というべきであろうけれど、刑訴一八五条によれば被告人に訴訟費用の負担を命ずる裁判に対しては本案の裁判について上訴があったときに限り不服を申し立てることができる旨規定されているのであって、しかもその法意は訴訟費用の裁判は本案の裁判と分離してその点のみを独立して上訴審の審判の対象とすることを禁止したものと解すべきであるから、上訴審において訴訟費用の裁判を是正すべき場合は単に本案の裁判に対し上訴の申立があっただけでは足らずその上訴が適法であり且つ理由があり本案についても下級審の判決が取消される場合に限るものといわなければならない。けだしかく解するのでなければ当初からその理由なきことを予期しながら敢えて形式的に本案につき上訴の申立をなすことによって、訴訟費用の裁判に対し独立して上訴を申し立て得る結果を招来するからである。しかるところ本件上告が本案の点につき採用に値しないものであることは後段説示のとおりであるから、本論旨も亦採るを得ない。上告趣意第二点及び同第三点は事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであり、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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